夏風邪

8月に入り、夏風邪をひいた。

それは、7月中旬に コロナ陽性となり それから2週間ほどヘルパーさんが来なくなったところから始まる。
うちにきているヘルパーさんは複数、そのうち一人だけが家族中コロナになってしまい、しつこく抗原検査を繰り返してはっきり陰性になるまで来られなかった。
家族が一番なれていて、なんでもこなせるその人が来られない事は私の負担を劇的に増やした。特に男性が代理で来ると母の身体介護が出来ないし父は男性だと嫌がるので簡単な家事援助しか頼めなかった。
負担が増えた2週間の最後に、
今度は別のヘルパーさんが家の敷地内で事故を起こした。
クッソ暑い中、
その対応に半日以上かかり、謝りにきたヘルパー事務所の管理職の対応で時間をまた取られ、その上 以前別のヘルパーさんに押し付けられて飼う羽目になった黒猫がうんこを家じゅうのカーペットへ塗りつけるという(尻にくっついちゃったので引きずってあるいたらしい)事故も重なり
もうヘトヘトになってしまったのである。

2日程、昼間ヘルパーさんがきている間は横にならせてもらったら大体体調が戻ってきた。喉は痛くなく、少し咳き込んだり 熱が少し出た。

その後、母親が体調を崩し SPO2が下がってしまったので、病院にいく事になったのである。
母親はコロナ陽性が判明して コロナ専用病床がある地域でも一番大きい病院に搬送された。
いちにちすぎて 本人へ渡した携帯電話から数分おきくらいに着信が届くようになった
「迎えにきて。どこにいるの」
「もう、どうでもいい。どうでもいい」

母は 認知症ではない。しっかりしている人だからこそ、声色と言っている内容の深刻さに胸が詰まった。「どうでもいい」とはどういうことか。
絶望的な気持ちである事は十分伝わってきた。

入院した次の日に看護師さんから抑制について同意書を書いて欲しいのだが、コロナだからこちらで代筆しておきましょうか。と言われた時は耳を疑った。同意書を代筆?内容を見ないで?
契約書をみないでサインをする人はこの世界にいるだろうか 普通はいない。どんな事が書かれているかを確認したいから、病院に荷物を持って行った時に見せてくださいと言った。

母はしっかりした人なので、周りを気遣い自分を抑える方なので、
暴れるなんてことは考えにくい。抑制をしなければならない状況とはいったいなんだろう。相当 パニックになっているのだろうか
防護服で現れた看護師は「そうですね、今回のは ベッド柵を四方に設けるなど 転落防止です」と言った。そんなに暴れる力があるとは思えない。だって起き上がるのも介助なのに、転落するほど動けるだろうか。
もしくは、そのくらい恐怖感を感じると言う事なのか。
その 持っていった荷物の中に携帯電話があったから、
母は矢継ぎ早に何度も何度も電話してきて「連れに来い」と欲求した。
常時つけている人工呼吸器のマスク越しなのでざーざーと空気の流れる音が聞こえるが、いやにその音が大きいのも気になった。
結局交渉の結果、入院した2日後に退院の方向になり、3日目に退院となった。

コロナ家族は、病院には入れてもらえない。
退院する場所も限定され、そこへ訪れた母は恐ろしいくらいにぐったりしていて、声をかける事も直視するのも避けたくなるほどだった。
なんとか車椅子から車の座席に移そうとするのだが、以前のような力がないので介助が難しい。そのうち 躊躇して 遠巻きにみていた看護師のうち一人が「私が介助手助けするから あなたは見守っていて」と
もう一人の看護師へ指示して(要するに自分だけが不潔になるのであなたはしなくていいよと言う意味)介助を手助けしてもらった。

一言も発することなく、家に辿りついたら、車がうまく可動せず、
(介護車)座席が下ろせないので抱きかかえて車椅子におろした。
そのとき、母がつけている 呼吸器のマスクからホースが外れた。
「なんじゃこりゃ」

母のマスクに繋がれていたホースは、そのマスク専用のものではなく、別のホースであった。
(通常使うマスクが二種類あって、別のマスク専用のホースが繋がれていた)

考えてみたら、後から持っていった加湿器(呼吸器が送り出す空気に
加湿し気道や口腔などの粘膜を保護するもの)も使っていた形跡がみられなかった。
マスクも3日間 まったく洗浄されていなかったらしく 鼻くそみたいになった痰のようなものがいくつも張り付いていた。

母は「誤嚥性肺炎を治療」「コロナ陽性だが、肺炎はコロナ由来ではない」「コロナの点滴治療をします」
と説明を受けた。

呼吸器の回路をテキトーに接続した状態で、
肺炎の治療?コロナの治療?

母の呼吸器は 肺疾患ではなく神経筋疾患による呼吸筋の不全を補うためのもので 換気を助けるためのもの。空気を送り込むだけでなく、呼気を引き出すためにはきちんとマスクを装着し、ホースも正しく接続しなければ 意味がない。
呼吸器専門医なのに、治療中 この回路の間違いをまったく気にしなかったのか。。
コロナ患者は 密室に閉じ込められ 家族は病院外に押しやられて本人の様子を見る事が出来ないので 間違いを見る事も指摘することも出来ない。
看護師も複数人で見ていたのに、この間違いに気づくこともなかったし、質問も受けなかった。。。

コロナ治療ということでされた 例の点滴薬のせいか 
帰宅した母は激しい下痢を繰り返した。
それに加えて、「誤嚥性肺炎治療」のために退院当日の朝投与された抗生物質はなにも食べていない母を繰り返し嘔吐させるほどの威力をもっていた。
上から下から、どんどん液体を出す。これでは脱水してしまう。

そんな母の介護をしている間に
父が熱発し、失禁を繰り返すようになった。床もトイレもベッド周辺も
尿の泉となり、足の裏がしっとりと濡れた。
それまで使っていなかったおむつやポータブル トイレ、ペットシーツ
いろんなものが ベッド周りにごった返した。

しかしヘルパーさんはコロナ陽性になったとたん誰も来ないので
一人で全部始末した。

数日後 往診に訪れた医師の検査により
父もコロナ陽性が判明した。
二人とも入院させるか問われたが、
母は拒否
父も

というわけで、
コロナ陽性の二人を介護する数日間が始まったのである。

二人とも外出しないので、私が最初にひいた夏風邪がコロナだったとすれば、私が彼らにうつした ということになる。

私はちなみに何度やっても「抗原検査」は陰性である。

父親の痰も
母親の痰も
両方とも おむつ介助、失禁の後始末、体の清拭をしても

陰性である。